浅井延彦
上荻歯科医院 院長
日本歯科大学を卒業し、上荻歯科医院の院長を務めている。豊富な知識と経験を持ち、日本口腔インプラント学会、顎咬合学会、日本メタルフリー歯科学会に所属し、最新の歯科医療技術の研鑽に励む。
インプラント治療は、顎骨にインプラント体を外科的に埋入する高度な処置です。歯科医師は細心の注意を払い精密な手術を行いますが、他の医療処置と同様、副作用やトラブルの可能性を完全に排除することはできません。そのため、患者の皆様がインプラント治療を検討する際には、潜在的なリスクと利点を十分に理解することが重要です。
そこで今回はインプラント治療に関連する副作用やトラブルについて詳しく解説しますので、参考にしてみてください。
下のあご骨には下顎管という重要な構造があり、血管や神経が通っています。さらに、骨内に予測困難な神経走行が存在することもあります。インプラント手術時に神経を損傷すると、永続的な感覚麻痺を引き起こす可能性があります。このリスクを最小限に抑えるため、術前にCTスキャンを用いて神経の位置を正確に把握します。しかし、CTでも検出できない微細な神経走行が存在する場合があるため、この潜在的リスクについては患者さんに十分な説明を行います。
また、神経損傷が発生した場合、通常はしびれや感覚異常といった症状が現れますが、口の運動機能に影響を及ぼすことは稀です。万が一、神経麻痺が生じた場合、回復には一定の期間を要します。この間、神経再生を促進し、症状を緩和するため、ビタミン療法やステロイドホルモン投与などの保存的治療が行われます。
インプラント手術では、頻度は高くありませんが、腫れや内出血が起こることがあります。通常のインプラント手術で大きな腫れは少ないものの、骨が少ない場合に骨再生手術を行った際には、腫れや内出血のリスクが高まる可能性があります。
これは、骨再生のために歯茎を広範囲に切開する必要があることや、上顎の場合には上顎洞の粘膜が破れるリスクがあるため、腫れの原因となることがあります。
インプラントの痛みは、ほとんどの場合鎮痛剤で抑えられる程度ですが、1週間経過しても痛みが改善しない場合は、早めに相談することをおすすめします。
まれに、インプラントを埋入する際に骨の量が少ない、または厚みが足りないことで、インプラントと骨がうまく結合しないことがあります。通常、CT撮影などであごの骨の量を十分に検討し、インプラントが可能かどうかを判断するため、無理にインプラントを行うことは少ないですが、検討していたより骨の質が悪い場合には、結合がうまくいかないケースもあります。
また、インプラントのドリル作業中には水を注ぎながら行いますが、この水の量が不十分だと、骨が「オーバーヒート」して、火傷のような状態になることがあります。さらに、ドリルの切れ味が悪くなっているものを使用したり、無理な回転数でインプラントを埋入すると、オーバーヒートが起こり、インプラントと骨の結合が妨げられる原因となります。
インプラントの初期固定とは、埋入時の骨との安定性を指します。
初期固定が悪くなる理由の一つとして、骨が柔らかかったり、厚みが不足している場合があります。このような場合、インプラントが骨からはみ出してしまい、安定性が損なわれることがあります。通常は、骨再生手術を行ってからインプラントを埋入しますが、術前の検査や診断が不十分だと、初期固定が不安定になることがあります。
通常、ドリルでインプラントの穴を開ける際は、インプラント体よりやや小さくするのが一般的です。しかし、歯科医師の技術が不足している場合、ドリルの穴が大きく開きすぎ、骨との初期固定が十分でなくなることがあります。このままではインプラントが安定しないため、インプラント体のサイズを調整したり、隙間に人工骨を埋めるなどの対策を講じます。
インプラント手術直後は、インプラント部分を歯磨きすることができません。そのため、殺菌効果のあるうがい薬で口をゆすぐ必要があります。しかし、これを怠ると汚れが蓄積し、感染のリスクが高まります。
また、抜糸後には、インプラント用の柔らかい歯ブラシを使って優しくブラッシングすることが推奨される場合があります。必要なブラッシングを行わずに放置すると、感染の可能性が生じます。
インプラント手術は外科手術であるため、通常の歯科治療よりも厳密な衛生管理が求められます。手術では、手術着や滅菌されたグローブ、マスク、髪の毛が入らないようにキャップを着用するなど、使い捨ての清潔な用品が使用されるのが一般的です。
また、手術器具も徹底的に滅菌され、感染防止が図られています。そのため、感染のリスクは非常に低いですが、手術時に不衛生が原因で感染する可能性はゼロではありません。
安心して治療を受けるためには、個室の手術室を備えた、インプラント治療に力を入れている歯科医院での治療が推奨されます。
部分入れ歯では、他の歯にばねをかける必要があり、そのばねをかける歯に負担がかかります。また、ブリッジの場合も両隣の歯を削る必要があり、削った歯の寿命を縮めることがあります。それに対して、インプラントは失った部分に直接埋め込むため、他の歯に負担をかけずに治療が可能です。
入れ歯やブリッジは保険適用で治療できますが、使用できる材質には制限があります。それに対して、インプラントは材質に制限がなく、自由に素材を選べます。そのため、セラミックの被せ物を選ぶことで、自然な見た目を実現できます。さらに、セラミックは経年変化による変色がなく、歯科用プラスチックに比べて摩耗も少ないです。
インプラントの10年後の使用率は90%を超えており、ほとんどの人が10年後も使用できるとされています。しかし、どの治療にもリスクはあるため、インプラントの副作用やトラブルについて理解した上で治療を受けることが重要です。さまざまな側面を知った上で治療を行うことで、納得しやすく満足度も高まります。
インプラントには多くのメリットがあり、しっかりと噛む喜びや快適な食事時間を提供してくれます。気になる方は、一度インプラント治療について相談してみると良いでしょう。