浅井延彦
上荻歯科医院 院長
日本歯科大学を卒業し、上荻歯科医院の院長を務めている。豊富な知識と経験を持ち、日本口腔インプラント学会、顎咬合学会、日本メタルフリー歯科学会に所属し、最新の歯科医療技術の研鑽に励む。
インプラント治療は、失われた歯を修復する方法の一つです。歯の根っこから頭の部分までを人工的に再現し、天然歯とほぼ同じ見た目や噛み心地を実現できる優れた修復方法です。今回は、インプラント治療を検討している方に向けて、その治療手順を詳しくご紹介します。
これまで、歯を失った場合の主な治療法は、歯茎を支えにして固定する入れ歯や、両側の健康な歯に連結して装置を作るブリッジでした。しかし、インプラントは人工歯根(フィクスチャー)を顎の骨に埋め込み、その上に人工歯を装着するため、安定性が高く、天然歯と同様に硬い物もしっかり噛むことができます。
また、他の歯に連結したり支えにする装置が不要なため、見た目も自然で美しいのが特徴です。ただし、土台を歯茎の下に埋め込む外科的な治療が必要となるため、治療は2つの段階で進められます。
最初に、治療がどのような流れで進行するのか、全体的な手順と各工程についてご説明します。
まず、患者様のご意向や治療の希望に基づいてカウンセリングを行います。修復する歯の本数や位置を確認し、それに応じてインプラントを埋入するための骨の硬さや厚みを評価するため、精密な検査を実施します。
検査には、レントゲン撮影や歯科用CT撮影が含まれ、顎の骨の状態やインプラントの埋入位置・角度を正確に確認します。肉眼では確認しづらい部分の治療となるため、内部組織や神経に損傷を与えないよう、じっくりと時間をかけて検査が行われます。
さまざまな検査結果をもとに、歯科医師が治療計画を立てて患者様に提案します。治療内容や期間、費用など、今後の治療に関わる重要な情報ですので、十分に理解し納得できるまで確認することが大切です。
検査結果によっては、事前に人工骨の移植や歯周病の治療が必要な場合もあります。全体的な治療期間が長くなることがありますが、インプラントを安全に埋入するためには必要な治療です。
インプラントの顎骨内への埋入は外科的な手術であり、麻酔下で行われます。まず歯茎を切開し、その下の顎の骨をインプラントが入る大きさにドリルで削り、インプラント体(フィクスチャー)を埋入します。
インプラントには、1回法と2回法の2つのタイプがあります。それぞれにメリットとデメリットがあり、医院によって取り扱いや提案が異なる場合があります。方法や治療期間について詳しく確認しておくことが重要です。
インプラント体が周囲の組織や骨としっかりと安定した後、人工歯を取り付ける処置を行います。1回法の場合は、土台が歯茎の上にあるため、そのまま人工歯を装着できます。一方、2回法では土台が歯茎内部に埋入されているため、再度歯茎を切開してアバットメントという接続部品を取り付けた後に、人工歯を取り付ける処置が行われます。
インプラントの埋入と人工歯の装着が完了すれば、治療は終了です。しかし、インプラントは丈夫な修復物ですが、メンテナンスを怠ると寿命が短くなる可能性があります。長持ちさせるためには、歯科医院から提案される定期的なメンテナンスを続けることが重要です。
人工物であるため虫歯にはなりませんが、歯周病と同様の症状を引き起こす「インプラント周囲炎」には注意が必要です。日常生活での毎日のオーラルケアも、メンテナンスの一環として重要です。少しでも不具合を感じた場合は、できるだけ早くかかりつけの歯科医院に相談することをお勧めします。
インプラント治療の流れの中で、インプラントを埋入する外科手術が主要な部分を占めます。ここでは、埋入手術の治療手順について、1回法と2回法それぞれの詳細をご紹介します。
1.局所麻酔後、歯肉を切開し顎骨を露出させます。精密なドリリングにより、インプラント体に適合する穴を顎骨に形成します。
2.ワンピース型インプラント(インプラント体とアバットメントが一体化したもの)を顎骨内に慎重に埋入します。
3.アバットメント部を歯肉上に露出させたまま、オッセオインテグレーション(インプラント体と骨の結合)の期間を設けます。この間、周囲組織の治癒と統合を促進します。
4.インプラント体が十分に安定したことを確認後、最終的な補綴物(人工歯)をアバットメントに装着し、機能性と審美性を回復します。
1.局所麻酔後、歯肉を切開し顎骨を露出。精密なドリリングでインプラント体用の空洞を形成。この段階は1回法と同様。
2.インプラント体を顎骨内に埋入。この際、将来のアバットメント接続部を保護するカバースクリューを装着。
3.歯肉を縫合し、インプラントを完全に被覆。この期間中、オッセオインテグレーション(骨結合)が進行。
4.十分な治癒期間後、二次手術を実施。歯肉を再切開してカバースクリューを除去し、アバットメントを装着。最終的に人工歯冠を連結。
インプラント治療の手法選択は、患者さん個々の顎骨の状態や全身的な健康状態を綿密に評価した上で決定されます。治療を開始する前に、提案される手順の詳細や予想される治療期間について、担当医から十分な説明を受け、理解を深めることが極めて重要です。インフォームドコンセントの観点からも、患者さんご自身が治療プロセスを十分に把握した上で、納得して治療に臨むことが、長期的な治療成功の鍵となります。
例えば、重度の歯周病で歯を失った場合や加齢により顎の骨が吸収されて短くなったり密度が低くなっていることがあります。1回法では骨の量や密度が十分でないと施行できないため、埋入手術の際には2回法が必要になるか、まず骨移植や骨造成を行う必要があります。このため、複数回の治療が予測されることがあります。
歯ぐきを切開する必要があるため、1回法の方が良いと考えるかもしれませんが、それだけの違いではありません。確かに処置回数で言えば1回法の方が少なく済みますが、身体的な負担を考慮すると、長時間の手術に耐える体力が求められることがあります。そのため、2回の手術に分けて1回の負担を軽くする方が適切な場合もあります。
インプラント治療は入念な事前準備が必要な治療です。他の修復方法である入れ歯やブリッジと比べて、治療手順は多くの工程があり、期間も長くかかります。また、外科手術を伴うため、身体的な負担も考慮しなければなりません。
とはいえ、インプラントは丈夫で安全な修復方法で、一生ものと言える耐久性があります。修理や交換の必要がほとんどなく、美味しく食事ができる点を考えると、長期的なライフスタイルに合った選択肢として検討する価値があります。