COLUMNコラム

インプラントの特性と他の治療法との比較について

歯の喪失は、虫歯、歯周病、または予期せぬ事故によって引き起こされることがあります。このような場合、咀嚼機能の回復が不可欠となります。主な治療選択肢として、入れ歯、ブリッジ、そしてインプラントがあり、患者の状態に応じていずれかが選択されます。本稿では、特にインプラント治療に焦点を当て、従来の入れ歯やブリッジとの違いを探ります。また、咀嚼の重要性についても触れつつ、インプラント治療の特徴と一般的な治療過程について詳しく解説します。

なぜ噛む機能を回復する必要があるのか

日々の食事は、私たちの身体の健康維持に不可欠です。活力に満ちた生活を送るための重要な要素の一つが「十分に咀嚼すること」です。この咀嚼機能を適切に果たすためには、健康な歯が必要不可欠です。しかし、歯を喪失したまま放置した場合、どのような問題が生じる可能性があるでしょうか。

消化不良を起こしやすい

適切な咀嚼は、豊富な唾液分泌を促し、消化プロセスを効果的に支援します。しかし、たとえ一本の歯を失っただけでも、咀嚼のバランスが崩れ、食事の際の不快感や困難が生じる可能性があります。にもかかわらず、「一本くらいの歯の喪失なら大丈夫」と考え、対処を怠る人も少なくありません。

確かに、歯を失っても完全に咀嚼不能になるわけではありません。実際、総入れ歯を使用している方の中には、適合が悪いために歯肉のみで食事を摂取しているケースも珍しくありません。しかし、このような不適切な咀嚼は様々な問題を引き起こす可能性があります。特に、咀嚼困難は消化不良のリスクを高め、結果として胃腸系統に過度の負担をかけることになります。

脳の活性化を抑制する

咀嚼は単に食物の摂取だけでなく、脳機能の活性化にも重要な役割を果たしています。実際、適切な咀嚼は認知症予防に寄与すると考えられています。しかし、歯の喪失を放置すると、咀嚼力の低下を招き、結果として脳への刺激が減少します。この刺激の減少は、注意力の低下や認知機能の衰えにつながる可能性があります。具体的には、集中力の欠如や、認知症に類似した症状が現れることがあります。

隣の歯が傾いたり、対面の歯が伸びたりするなど、噛み合わせが不調になる

歯の喪失を放置すると、口腔内の構造に悪影響を及ぼします。具体的には、喪失した歯の隣接歯が空隙に向かって傾斜する傾向があります。さらに、対合歯(噛み合う上下の歯)が、本来の噛み合わせ位置を超えて伸長することがあります。これらの変化は、口腔全体の咬合バランスを崩す原因となります。

見た目が悪くなり、老けて見えてしまう

歯の喪失を放置することは、全身の健康のみならず、容貌にも顕著な影響を及ぼします。咀嚼力の低下は、口周辺や顔面の筋肉の衰弱を引き起こし、結果として皮膚のたるみなどの症状を招きます。特に目立つ変化としては、口角の下垂やほうれい線の深化があり、これらは実際の年齢以上に老けた印象を与える要因となります。つまり、歯の喪失は単なる機能的問題だけでなく、外見的な老化の加速にもつながり、社会生活や自己イメージにも影響を与える可能性があります。

歯の喪失を放置することは、多岐にわたる悪影響をもたらします。まず、発音の明瞭さが損なわれ、コミュニケーションに支障をきたす可能性があります。また、時間の経過とともに口腔内の状態が悪化し、将来的により複雑で高額な治療が必要となる場合があります。これらの問題は、単に口腔の健康だけでなく、全身の健康状態や日常生活の質にも深刻な影響を及ぼします。

抜けた歯の治療法について

歯の喪失後は、咀嚼機能の迅速な回復が重要です。この目的のための主な治療法には、入れ歯、ブリッジ、インプラントの3つがあります。健康保険制度の観点から見ると、入れ歯とブリッジは保険適用となるため、保険診療を希望する場合はこれらが選択肢となります。一方、インプラント治療は、特定の限られたケースを除き、基本的に自費診療となります。

インプラント治療の特徴とは?インプラントのメリットとデメリットについて

インプラントのメリット

インプラント治療は、歯の喪失に対する革新的なアプローチです。この方法では、失われた歯の位置に人工歯根(インプラント体)を顎骨に直接埋入します。その後、このインプラント体の上に、セラミッククラウンなどの人工歯冠を装着します。この過程により、自然な歯に近い形態と機能を持つ人工歯が作られます。インプラントは、単に見た目を回復するだけでなく、咀嚼機能を効果的に復元し、口腔全体の健康と機能を維持するのに役立ちます。

インプラント治療は、単に咀嚼機能の回復にとどまらず、高い審美性も兼ね備えています。この特徴により、機能的な面と美的な面の両方を満たす優れた治療法として注目されています。自然な見た目と効果的な咀嚼能力の両立が可能となり、患者の生活の質を大きく向上させる潜在力を持っています。しかし、どの治療法にも長所と短所があるように、インプラントにもメリットとデメリットが存在します。ではインプラントにはどのようなデメリットがあるでしょうか。

インプラントのデメリット

・ 外科手術を伴うため、持病や飲んでいる薬によっては治療が制限される場合がある
・ ごく一部の症例を除いて自費治療になるため、治療費が高くなる
・ 入れ歯やブリッジと比べて、治療期間が長くなる
・ どこの歯科医院でも取り入れているわけではない

インプラント治療の利点と欠点を説明してきました。一般的に、インプラントは美しい外観を提供することで知られていますが、その最大の利点はそれだけではありません。実際、インプラントの最も重要な利点は、隣接する健康な歯に影響を与えずに治療が可能なこと、そして残っている自然歯の健康維持が容易になることです。

従来の入れ歯やブリッジによる治療法は、隣接歯や対合歯に悪影響を及ぼす可能性が高く、これらの歯に過度の負担をかけ、結果として寿命を縮める恐れがあります。特にブリッジ治療では、支台歯として使用する健康な歯を大幅に削る必要があり、これは深刻な問題につながる可能性があります。健康な歯質を過度に削除することは、将来的に様々な合併症を引き起こす可能性があり、その潜在的なリスクは非常に大きいと言えます。

インプラントは、他の歯を削ることはありません。咀嚼機能回復だけでなく、他の歯の健康を維持しやすい治療法なのです。

インプラントの構造と治療の流れ

インプラントの核心部分は、人工歯根として機能するインプラント体です。このインプラント体は、主にチタンまたはチタン合金で製造されています。チタンは生体親和性が非常に高く、人体との適合性に優れた素材として知られています。この特性により、チタンは歯科インプラントだけでなく、整形外科分野での人工関節など、様々な医療用途に広く使用されています。

インプラントの構造と手術の術式

インプラント治療システムは、主に3つの重要な構成要素から成り立っています。まず、歯根の役割を果たす「フィクスチャー」があります。次に、フィクスチャーと人工歯をつなぐ中間部品である「アバットメント」、そして最後に、実際に見える部分となる人工歯である「上部構造」があります。これらの部品の組み合わせ方によって、インプラントは大きく2つのタイプに分類されます。フィクスチャーとアバットメントが一体となった「ワンピース型」と、これらが別々の部品として後で連結される「ツーピース型」です。各タイプには独自の特徴があり、患者の状態や治療目的に応じて選択されます。

インプラント治療には、主に二つの手術アプローチがあります。「一回法」と呼ばれる方法では、全ての手術処置を1回の手術で完了させます。一方、「二回法」は手術を2段階に分けて行う方法です。これら二つの術式のうち、より広範囲の症例に適用可能で柔軟性が高いのが二回法です。

インプラント治療の流れ

ではインプラント治療はどのような流れで治療が行われるのでしょうか。二回法をもとに、治療の流れをご説明します。

① カウンセリング、
② レントゲン、CT撮影、血液検査などの術前検査
③ 必要に応じて、手術までに歯周病治療や虫歯治療などを済ませておく
④ 一次手術前に局所麻酔を行い、歯ぐきを切開してインプラント体を埋入する
⑤ 歯ぐきを縫合し、顎の骨とインプラント体が結合する安静期間(結合期間)に入る。期間は部位によるが、3~6ヶ月程度
⑥ インプラント体と顎の骨の結合を確認したあと、二次手術を行う。再び局所麻酔を打ち、歯ぐきを切開してアバットメントを取り付ける
⑦ 歯ぐきの治癒を確認後、人工歯の型取りを行う
⑧ 人工歯の装着後、噛み合わせなどをチェックして問題がなければ治療終了
⑨ 定期的なメンテナンスを受け、インプラント部分に問題はないか、インプラント周囲炎になっていないかなどを確認する

インプラント治療を受ける際には、歯科医院の選択が最も大切です

これまでインプラント治療の特徴と利点について詳しく説明してきました。インプラントは、咀嚼機能の回復、審美性の向上、そして残存歯の保護という点で非常に優れた治療法です。しかしながら、他の医療処置と同様に、インプラント治療にも潜在的なリスクや合併症が存在する可能性があります。そのため、インプラント治療の成功には、適切な歯科医院の選択が極めて重要です。

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